サラリーマンをやってるといろんな研修を受けますが、最も印象深く、かつ最も実践的な研修に「ネゴシエーション研修」がありました たしか1990年ごろ、30歳前半で受講した3日間の研修 そのハーバード流ネゴシエーションの英語研修は、長く自分の交渉術として使わせてもらっています
ハーバード流交渉術
仕事の前に遊びなさい、食事をしなさい
多くの方が経験があると思いますが、一緒に遊び語らうと、趣味が同じであることに気づいたり、出身地が近いことを知ったり、共通の知人がいることをわかったりします
その人のことがわかると、その人が発する言葉や仕草を受け入れやすくなります また、先方が、自分のことを理解してくれているという安心感がビジネスを進める上では重要ですね
行き詰まったら休憩
ネゴシエーションで行き詰まったら休憩
休憩後は、大勢ではなく少人数で、できたら1:1で基本合意を取り付けます 大勢の前では、ネゴに勝つとか負けるとかに関心が行きがち しかし、重要なのは交渉に勝つことや負けることではなく、売ること、承認をもらうこと、合意に至ることです
好きか嫌いかは関係ない
相手を好きか嫌いかは関係ない 嫌いであっても売れればいいので、そこに集中 もちろん、議論に勝つ必要もありません
そういう意味では、ネゴシエーションのツールには、Objective Criteria(客観的は物差し)が有効 誰も否定できない事実やデータを共有しながら交渉を進めることが重要ですね
交渉相手は敵ではなく、問題を一緒に解決するパートナー
交渉相手は敵ではなく、問題を一緒に解決してくれるパートナーであるという考え方
価格交渉においても、単に値段を下げることが先方のゴールではないと考えるべき そうではなく、相手がたくさん仕入れてたくさん儲けることがゴールであるのであれば、相手に販売するこちらにも適正な利益がないと事業継続できないことを理解してもらうべき
バリューチェーン全体を潤し、その全体利益をお互いに分け合うことが重要です どちらか一方だけが儲けるビジネススキームは長続きしないことを理解することが重要
そういう相互理解を持つことで、交渉が正しく進み、次回以降にも継続交渉できることになります
そのためにはBATNAを知ることが必要
BATNAとは、Best Alternative to a Negotiated Agreementの略 日本語で言えば、「合意できなかったときの最善の選択肢のこと」別の言い方をすれば、交渉がまとまらなかった場合でも、最低限取り得る方策です
交渉の前に自社のBATNAをまとめることが重要です そして、もっと重要なのは、相手のBATNAを事前に推測することです 両方がギリギリ合意できるセンを予め想定しながら交渉すること
もし、事前の予想が外れても、また予想し直す 相手のゴールを共有しながらAlternative(代替のゴール)を一緒に考えることが重要です
失敗例
米国での事業責任者のとき、東海岸の同業他社のトップから弊社への訪問依頼を受けた事がありました 営業は、工場を見せるなんてできないと言いますし、製造やR&Dに聞いても、同様の答えでした
私は、目に見えるところに高い製造品質を保つ秘訣はないのだから、来てもらおう ひょっとしたら、事業譲渡の相談かもしれないのだからと皆を説得しました
先方にはWelcomeですとの返事をしながら、営業には、先方のBATNAが何であるかを事前に検討して私にレポートするよう依頼しました
というか、したつもりでした 実際は、先方に出した返事のメールと営業に出した依頼メールを全て全員に送付してしまいました 弊社の営業も驚きましたが、もっと驚いたのは先方でした メールにこの人たちの魂胆とゴールが何であるかを調べろと書いてあるのですから
ただ、表向きは怒ったりはせず、我々がそんな準備をしているのかと事前にわかり、大いに興味を持ったみたいでした 当日の見学会は和やかに進み、次回は先方の工場を見せてもらうことを約束してもらいました
その後
数年後、我々はコンペティションを勝ち進み、その会社のM&Aを成就しました
売買契約書にサインをした後、そういえば数年前Californiaの弊社に来てもらったとき、変なメールを誤送してしまい申し訳ありませんでしたと言うと、古参のあなたたちが、自分たちを認めてくれていたのがわかってとても嬉しかった あなたが手の内を明かしたのはUnprofessionalだったけど、交渉に誠実に取り組む姿勢が見えて安心できたと言われました
当時、我々が考えた(推察した)先方のBATNAは以下のようなものでした
・買収後も先方のブランドを保持するようにしてほしい
・従業員は解雇せずにそのまま雇い続けてほしい
・自分たちの顧客を大切にしてほしい
・PMIは双方の幹部で対等に進めることにしてほしい
などなどです
PMI
2019年に買収が成立し、すぐにPMI(Post Merger Integration: 直訳すれば「合併後の統合」を指しますが、「統合効果を最大化させるために行う一連のプロセス」を意味します)に取り組みました
PMIはアメリカ人にお願いしましたが、先方へのRespectを忘れず誠実に進めてもらうようお願いしました 買った側、買われた側という立場の違いを超えて、「一緒により良い会社を作る」という理念でPMIを進めてほしいと願いましたし、彼らもそれを実行してくれました
このライバル会社を買収したことにより業界の世界シェア1位を獲得し、安定雇用が継続できる素地ができました
あとがき
30歳代前半に受けた研修で得た知識が、今も自分の仕事Qualityを支えてくれていることをとても興味深く思います 理念には、カーネギーの「人を動かす」に通ずるものがあると思います
カーネギーが言っているように、人の心が動いたときその人は動くというのは、ネゴシエーションにも通ずるものがあると思います
シアトルの販売会社の買収も行いましたが、先方の社長から「あなただから売ったのです」と言われました 交渉人として、本当に名誉なことだと思います
自分さえ良ければいいと思っていないこと、残った従業員を大事にしようとしていること等、こちらが思っている以上に、相手に伝わるものだと学びました
BATNAとは戦術ですが、実は、戦術だけでなく、仕事の仕方全体や、生き方にもつながるものかもしれませんね
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