21世紀委員会での活動

マイブーム

1988年7月に策定した前職の国際本部若手チーム(当時)が策定した「21世紀ビジョン」をチームのメンバーであった先輩よりコピーをいただきました 

自分が21世紀委員会の事務局としてまとめたレポートなのに自分の分はすでに失くしておりましたが、いただいた当時のレポートは40年近くを経ても、ハッとさせられるところがあります また、本当に自由に、そして辛辣に書いているこのレポートを許していただいた当時の上司の皆さまに頭の下がる思いがします

環境予測

政治

共産圏側から自由主義諸国へのアプローチが積極的に行われる」と予測しています

東欧諸国のEU加盟が実際に起きましたし、スロバキア、スロベニア、クロアチア等は通貨もユーロになりました 全体的に正しい予測であったと思います 

しかし、今のロシアのウクライナ侵攻については、当時では予想もつかないことであると思います

為替

「21世紀においても世界の基軸通貨はUS$であろう」としています まさに、その通りの推移です

米州

「21世紀にはレーガン政権が陥った双子の赤字が解消され、カナダ・メキシコを加えた強い経済圏が構成され、強いアメリカが復活するであろう」と予測しています

全体的には当たっていますが、強いアメリカの復活は北米経済圏によって成し遂げられたのではなく、インターネットの普及とともに新ビジネスが構築され、それに積極的に取り組んだGAFAM等の台頭によって強いアメリカが復活したとするのがより正確な書き方であろうと私見します

欧州

「EC(EU)の市場統合は進み、EFTAを中心に拡大する また、コメコンや中近東諸国もECとの経済協定の締結を行うであろう 米州ブロックに対抗する大欧州統合市場が形成される」と予想しています

1988年にこの予想をしていたのは、少し驚きです 当時の日本の若手メンバーだけでここまで大胆な予想をするのは無理で、記憶にないのですが、おそらく当時の欧州駐在員の肌感覚をヒアリングしながらレポートを作ったのであろうと推察します

アジア

「アジアNIEs、ASEAN、中国が工業化を進め、アジアの経済力はアメリカに肉薄するまでになる しかし、各国で異なる宗教・民族性・文化の壁を越えられず、米州圏/欧州圏のような統合経済圏は確立されていないと予測する」とあります

ここも大きくは当たっていると思いますが、中国の台頭のことを書いてないのは、ちょっと片手落ちかもしれないです ただ、1988年ではそこまでは書けないのかもしれません。中国の後進性と隠匿性を見せつけられた天安門事件でさえこのレポートの1年後である1989年6月ですから。。。

日本

「一人当たりGNPはアメリカを抜いて世界一位になる それにつれて、海外からの資本や労働力がかなり流入する 変化に対応する企業体質を作ることが急務である」と予測しています

大外れです 日本は、大幅に遅れ世界についていけなくなってしまいました スタートアップ企業を育てる土壌がなく新興の産業への投資を行うスキームを政治がサポートしませんでした 国際化は依然一部の企業に限られており、当時のレポートがとても楽観的であることが恨めしいです

成功体験が変革アクションを保守的にさせるという傾向は、会社レベルに限らず産業レベルや国レベルでも同様のことが起こりますね

構造改革

地域本社制

「日本を基地とした商品ごとの事業部制ではなく、世界の4地域(米州、欧州、アジア、日本)に本社を置き、顧客別のDivisionに再編するべきである」と提言しています

地域本社制と製品別事業体制から顧客別のDivision Company制の提案ですが、多くの会社が21世紀を待たずにこの制度を取り入れました しかし、このスキームが機能した業種は自動車業界等の一部に限られてしまっている実態があります 

企業力そのものや商品力が強くなければグローバルスキームだけでは機能しません

コミュニケーション

「東京の本社と各国の現地法人のやり取りでは意思決定がタイムリーに行われないことが懸念されるし、そもそも地域に合った製品開発ができない したがって、地域本社に大幅に権限を委譲し、現地で経営を完結するような仕組みの構築が必要である」と提案しています

まさにその通りであると思いますが、販売や購買、また生産の現地化は進められますが、特に開発関連の現地化は、かなりハードルが高いのが実情です 

グローバル最適と地域最適のせめぎ合いが起きたりして、「現地での経営の完結」は独立性を担保しながらも、グローバル最適に即したものにするべく、ある程度限定的にならざるを得ないのが現実であるように思います

一方、携帯電話の普及や海外とのリモート会議の実施等、ブロードバンドベースのインフラの強化は予想さえしておらず、この点は、当時の予想を超えて社会資本の変革が行われたのだと思われます

企業風土づくり

企業風土づくり

「現地化と現地人化は、会社内部の意識改革から始めねばならない。現地人の給与体系、年金、社有車の基準等の尺度づくりから始めたい。私たち自身が地球人になる努力をしたい」と書かれています

当時、GlobalやGlobal化という単語はなく、せいぜいInternationalという言い方であったと記憶しますが、「地球人になる努力をする」というのは、かなり進んだ考え方をしていたのだと感じます

現地化と現地人化は多くの企業が取り組んできたテーマですが、とても難易度の高いテーマです このテーマの難易度を上げているのは、現地の取り組みではなく、現地の取り組みを理解しない日本側の国際感覚の乏しさがありました かなり改善してきていますが、スピード感に欠ける部分は否めません

人間はアナログであるという真理

「人間は瞬時に変わることができないアナログな生き物であるということを意識せねばならない」と書いています

たしかに、現地化や現地人化が一夜にして成就できるわけではありません むしろ逆で、その歩みは、本当に一歩一歩でしかありません しかし、これを頑張った結果として、世界中に多くの友人を持つに至ったのは、個人的には感謝しかないと思える恩恵です

現地化マネージメントも、英会話の上達も、ダイエットも一歩一歩のアナログ的進歩ですが、それゆえに、自分なりの目標に達した喜びは感動を伴うものであると思います

人材育成

「心」を理解すること

貿易摩擦は文化摩擦である」 「国際ビジネスマンの文化音痴」 「現地人にやる気を起こさせない日本人」と言いたい放題のレポートです

その国や地域がもつ文化を理解することが相手の「心」を掴む第一歩であると書かれていますが、24年の英国と米国の駐在経験を持つに至り、当時、こんな生意気なことを言っていた我々を愛おしく思います

自分たちだけでこんな凄いことを言えたとは思えず、おそらく指南役であったW理事のご助言をいただいて書いたのだと思いますが、本当に大事なことが書かれていると思います

異文化を自由に論議できる風土

「経済戦争のフロントである海外駐在員」「国際人を育てぬ日本の風土、外国かぶれの言葉の背景」「海外で定年」と、ここでもかなり鋭角的な表現で評論しています

たしかに、200年以上の鎖国という歴史を持つ日本に住む日本人は国際人としての素養に劣ると思われます 外国かぶれなどという言葉をいまだに使う友人がいますが、本当に悲しいことだと思います こういう差別用語を使っている間は、「世界の中の日本」は実現しませんし、本当の意味での尊敬を受けることもないであろうと考えます

「海外で定年退職する人が出てくるぞ」と言われたW理事のコメントを半信半疑でレポートに書いていますが、まさか、自分が定年退職日をアメリカ駐在中に迎えることになるとは、当時は夢にも思っていませんでした

さすがに、「英語を使ったコミュニケーションができない国際ビジネスマン」という自虐的な表現は本番のレポートからは削除していますが、こんな言いたい放題を許していただいた当時の国際本部長や皆さまには改めて感謝を申し上げたいと思います

あとがき

1988年に行った国際本部若手Gの提言、36年前のレポートを読み返し、当時こういう教育を受けていたことに驚きますし、感謝しかないと思います

私は、その後1993年に英国に赴任、4年間の英国駐在をして、その後、転職前後を合計し20年の米国暮らしを経験しました 生活も仕事も大変な経験をしましたが、多くの出会いがあり、学びがあり、感動があり、とても素敵な経験をさせてもらったと思います

このおかげかもしれませんが、義務教育期間を海外で過ごした子供たち、 長女はブラジルに赴任中長男は米系コンサル会社でバリバリ働いています 特に長女の家族帯同のブラジル行きは勇気が要ったと思いますが、自分がした貴重な経験を自分の子供達にもしてあげようと考えたのかもしれず、そういう意味では我々の海外での子育ては間接的に肯定されたのかと、少し嬉しく思います

36年前のレポートを読むと、本当に未熟だった私でしたが、多くの方のおかげで成長できたことに気づきます こんな素敵な人生を送れていること、改めて、心より感謝申し上げたいと思います!

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